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名古屋高等裁判所 昭和57年(ネ)101号 判決 1982年12月22日

控訴人 中京建鉄工業株式会社破産管財人 富岡健一

右訴訟代理人弁護士 木村静之

被控訴人 株式会社東京鉄骨橋梁製作所

右代表者代表取締役 伊代良孝

右訴訟代理人弁護士 田中学

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は控訴人に対し金一四三万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五四年五月一五日より支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを五分し、その二を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

この判決は、控訴人勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金二四七万九〇〇〇円及びこれに対する昭和五四年五月一五日より支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠関係は、次に付加する外、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原判決七枚目裏七行目の「対等額」を「対当額」と改める)。

(控訴代理人の陳述)

本件U字溝等工事は訴外会社が被控訴人から請負代金八三〇万円で請負った掛川市中央小学校横断歩道橋架設工事の中に含まれていたのであるから、右請負契約はそれが一部解除される等の特段の事情がない限り有効に存続するのであって、右契約に基づき一旦発生した代金債権が訴外会社の破産宣告や被控訴人の訴外山本組に対する支払いによって消滅することは、法律上あり得ない。そして、訴外会社は孫請業者として訴外山本組を選定し、訴外会社と訴外山本組との間の請負契約に基づき本件U字溝等工事を完成し、被控訴人との間の請負契約の内容を履行したのである。

ところでこの点に関して、被控訴人は訴外会社が倒産し破産宣告を受けることがなければ、訴外会社と被控訴人との間では、訴外山本組を訴外会社の履行補助者として認める合意があった旨主張するが、訴外会社と被控訴人との間の請負契約の内容が、訴外会社の破産宣告という事実によって変更されるものであるという証明は何らなされていない。

また原判決は、井上光彦による無権代理行為を被控訴人が追認したことにより、被控訴人と訴外山本組との間の本件U字溝等工事の請負契約は有効に成立したとも認定している。しかしながら右追認により訴外会社の被控訴人に対する代金請求権が消滅したという趣旨であるのなら、控訴人は民法一一六条但書にいう第三者に相当するから、被控訴人は控訴人の権利を害するような追認をすることができない。

(被控訴代理人の陳述)

本件U字溝等工事の請負契約が被控訴人と訴外会社間で成立したことは認める。しかしながらそれとは別に、被控訴人の代理人である井上光彦が訴外山本組との間で同旨の契約を締結したものであって、訴外会社と訴外山本組との間では同工事の孫請契約は成立していない。もっとも、訴外会社が破産宣告を受けることがなければ、被控訴人と訴外会社との間の請負契約の合理的な解釈または商慣習から訴外山本組を訴外会社の履行補助者と認めることも可能であろうが、実際には訴外会社は破産宣告を受け、被控訴人が訴外山本組に対し訴外山本組との間の請負契約に基づき請負代金を支払ったのであり、そうである以上被控訴人の訴外会社に対する代金支払義務は消滅したというべきである。

理由

一  控訴人主張の請求原因3(一)(三)(四)の各工事について控訴人がその主張どおり現存(残存)債権を有していること、及び同3(五)の工事について訴外会社が金三三八万四〇〇〇円の超過支払いを受け、右金額を不当に利得していることについての当裁判所の認定判断は、この点に関する原審の認定判断(原判決一〇枚目裏七行目から同一一枚目表一行目まで、及び同一六枚目裏七行目の「北陸自動車道……」から同一七枚目表九行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

二  そこで、請求原因3(二)掛川市中央小学校横断歩道橋架設工事(以下本件歩道橋工事という)について検討することとする。

被控訴人が訴外会社に本件歩道橋工事を金八三〇万円で下請させ、これに対し被控訴人が訴外会社に金八一三万円を支払ったことは当事者間に争いがない。従って残存債権額は金一七万円となることが明らかである。

1  水銀灯設置工事について

《証拠省略》によると、被控訴人は訴外会社に対し本件歩道橋工事の一環として、街路灯を一時的に他に撤去し、歩道橋完成後これを復旧させる工事を、ブロック塀及び街灯一基撤去埋戻残土処分工事(雑工事)として代金一六万円で請負わせたが、訴外会社は街路灯を撤去したものの照明灯の頭部部分を破損させたままの状態で放置して倒産したため、被控訴人は川北電気工業株式会社に右工事を請負わせてこれを完成したことが認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定事実によると、訴外会社は本件歩道橋工事のうち水銀灯設置工事を完成していないのであるから、右工事代金に相当する金一六万円については被控訴人に対しこれを請求することができないというべきである。

2  U字溝等工事について

(一)  被控訴人と訴外会社間でU字溝等工事についての請負契約が成立したこと、訴外会社従業員井上光彦は本件歩道橋工事について被控訴人に出向していたものであるが、同人が更に訴外山本組との間で右工事のうちU字溝等工事について請負契約を締結したこと及び訴外会社が昭和五三年六月一五日名古屋地方裁判所において破産宣告を受けたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると、次の事実を認めることができる。

(1) 井上は本件歩道橋工事について出向先の被控訴人の現場責任者として(もっとも給与は引続き訴外会社から支給されていた)孫請業者である興組及び加藤工務店を引き連れて工事施工の指揮監督をしていたが、追加工事について地元業者を孫請として使用する必要が生じた。

(2) そこで井上は掛川市から追加工事であるU字溝等工事をする業者として訴外山本組の紹介を受け、被控訴人名古屋営業所工事係という肩書を付した名刺を示し、また訴外山本組から被控訴人宛の工事見積書を提出させたが、代金一六〇万円で右工事の請負契約を締結するに際しては、本件歩道橋工事は訴外会社が被控訴人から下請したものであり、同工事の追加工事であるU字溝等の工事代金は訴外会社において支払う旨を明示した。なお右請負契約に関して書面は作成されなかった。そして訴外山本組は昭和五三年五月末頃右工事を完成し、訴外会社を通じて被控訴人に引渡しをした。

(3) ところが、訴外山本組は工事代金の支払いを受けられないため、掛川市と相談した後、昭和五三年八月頃被控訴人に対して請求書を発送した。右請求書を受け取った被控訴人は訴外会社から訴外山本組に関して何らの報告も受けていなかったので、早速担当者が掛川市にある訴外山本組を訪れて調査したところ、井上は前示のような名刺を使用して契約をしている上、紹介者である掛川市に迷惑をかけるわけにはいかないと判断して、訴外会社の関係者には事実関係を確かめないまま、訴外山本組の請求に応ずることとし、事後的ではあるが、注文書及び請書等の書類を整えた上、訴外会社破産宣告後の同年九月三〇日訴外山本組に対し金一六〇万円を支払った。以上の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

(二)  右認定事実によると、U字溝等工事に関する請負契約は訴外会社と訴外山本組との間で成立し訴外山本組は同契約の履行として同工事を完成引渡したものであり、井上は被控訴人の代理人として右請負契約を締結する意思を有していたとはいえないから、被控訴人と訴外山本組との間には表見代理による請負契約の成立を認める余地はないものといわなければならない。そうすると、被控訴人は訴外会社の訴外山本組に対する金一六〇万円の請負代金債務を事務管理として弁済したものと解する外はないが、これにより被控訴人は訴外会社に対し右と同額の求償権債権を取得したものということができる。被控訴人は本件歩道橋工事の請負契約に基づき生じた訴外会社に対する代金支払義務のうちU字溝等工事に関する分は、被控訴人が訴外山本組に対し自己の債務としてその請負代金を支払ったので消滅した旨主張するが、右主張は理由がなく、失当である。

三  しかるところ、被控訴人が昭和五六年五月六日の本件口頭弁論期日において訴外会社に対する不当利得返還請求権を自働債権として控訴人の本訴請求債権と対当額において相殺する旨の意思表示をしたことは、本件記録上明らかであるので、以下において右相殺の効果について検討することとする。

1  本件歩道橋工事のうち水銀灯設置工事に関して生じた金一六万円、及び北陸自動車道金沢高架橋架設工事に関して生じた金三三八万四〇〇〇円から控訴人において本訴請求の際すでに過払いを認めて控除した金二五〇万円を超える金八八万四〇〇〇円の各不当利得返還請求権合計金一〇四万四〇〇〇円については、被控訴人が訴外会社の支払停止または破産の申立を知って取得したものであるとの主張立証がないから、右不当利得返還請求権を自働債権とする相殺の意思表示は有効であって、控訴人の本訴債権は右債権と対当額において消滅したものといわなければならない。

2  しかしながら、本件歩道橋工事のうちU字溝等工事に関して生じた求償権債権金一六〇万円を自働債権とする相殺(被控訴人はこれを不当利得返還請求権による相殺と主張しているが、被控訴人の右相殺の主張の中には本件求償権債権を自働債権とする相殺の主張も含まれているものと解すべきである)は、その効力を認めることができない。

けだし、右のような破産宣告後の事務管理に基づく求償権債権を自働債権とする相殺を有効と認めるならば、訴外山本組の有する破産債権は破産手続によらずして弁済されたのと同じ結果を容認することになる上、これはあたかも破産宣告後に他人の破産債権を取得し、これを自働債権として相殺をなす場合と異ならないのであってかかる相殺は破産法一〇四条三号により禁止されていることが明らかであるからである。

四  してみると、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、請求原因(一)ないし(四)の現存(残存)債権額合計金四九七万九〇〇〇円から控訴人において認めている金二五〇万円及び前記三、1の相殺分一〇四万四〇〇〇円を控除した残額金一四三万五〇〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五四年五月一五日より支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却すべきである。

よって、これと異なる原判決を右の趣旨に変更し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条前段、九二条本文、八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 井上孝一 喜多村治雄)

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